背景と課題
地域交通では、運転手不足や高齢化によりサービスの維持が困難になりつつあります。また、人口減少による利用者の減少も進み、路線の縮小や廃止が課題となっています。このような状況から、自動運転車両を活用した交通サービスの社会実装が推進されていますが、複数車両を安全かつ効率的に運用する「運行管制」の仕組みが不可欠です。
しかし、現在の技術では、定時性を支える運行計画の自動調整、突発事象発生時の迅速な状況把握と対応、道路環境の異常検知や車両の遠隔監視を含む運用・保守の省人化といった課題が残されています。例えば、数十から100台規模の車両を広域で運行する地域バス事業では、全車両の運行・管理を支えるシステムの構築が求められています。
経済産業省・国土交通省による「自動運転レベル4等先進モビリティサービス 研究開発・社会実装プロジェクト」においても、このような社会実装に向けた技術開発が進められています。
開発された技術の特長
日立製作所が開発した運行管制システムは、これらの課題を解決するために、以下の3つの技術を組み合わせています。
1. 高効率かつ定時性の高い運行を実現するダイナミック運行管理技術
社会インフラ分野で培われた最適化・予測技術とAIを組み合わせることで、自動運転車両の速度をリアルタイムで計画し、制御指示を送信します。最新の遅延状況や広域の交通状況を考慮した効率的な運行が可能となり、運行停止や遅延拡大のリスクを低減し、サービス品質の向上に貢献します。
2. 安全な運行を支える走行環境デジタルツイン×影響予測AI技術
実世界の車両や道路などの走行環境を3Dで再現し、日々の変化を可視化するデジタルツイン技術と、その変化が自動運転に与える影響を予測するAI技術を統合しています。これにより、運行に支障をきたす変化を検知してリスクを回避するとともに、走行環境の点検や保守にかかるコストの削減が期待されます。
3. 少人数オペレーションを支える遠隔監視支援AI技術
AIを活用したシーン分析により、遠隔監視者による支援や現場への駆けつけ要員の必要性を推定することで、監視者の意思決定や業務を支援します。これにより、交通事業者は少人数で車両の効率的な監視・整備業務が可能となり、運行管理全体の業務効率化とスムーズな運用を実現します。
実証実験の結果
2026年3月下旬に、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの自動運転バス路線を実フィールドとして活用し、実証実験が行われました。この実験では、将来の複数車両運行に向けた基礎検証として、単一車両の効率的な運行管制に焦点を当て、「ダイナミック運行管理」、「デジタルツインによる走行環境評価」、「AIによる遠隔支援」といった機能の有用性が評価されました。
具体的には、ダイナミック運行管理において、一時的な遅延が発生した場合でも、後続の運行への影響を最小限に抑えられることが確認されました。乗降対応や歩行者横断などによる遅延発生時でも、その時点の走行状況に基づき運行計画をリアルタイムで見直せることを実証しています。

また、デジタルツインによる走行環境評価では、大学内の走行環境を3D空間上に再現・評価する技術と、周辺状況を解析するAIを組み合わせることで、道路工事や駐車車両など、運行に支障をきたす環境変化を検知できる有用性が確認されました。さらに、AIによる遠隔支援では、自動運転車両の走行状況解析により、遠隔オペレーターなど人による現場支援の必要性を約90%という高い精度で判断できることが実証されています。
今後の展望
日立製作所は、今回の大学内での実証成果を踏まえ、中長期で研究・開発を進めていきます。今後は、複数車両における統合的な運行管理への拡張や、走行環境に関わるデータ収集・管理基盤の構築を加速する方針です。その一環として、日立市と推進している「次世代未来都市共創プロジェクト」のグランドデザインに基づき、日立市の公共交通への社会実装に取り組み、2030年度の社会実装を目指しています。このグランドデザインについては、以下のリンクで詳細をご確認いただけます。
さらに、自治体や交通事業者との協創を通じて、バスに加えてオンデマンド交通やドローンなど多様なモビリティへの適用を広げ、運行・保守のデータ連携を社会インフラ全体へと波及させていく計画です。これらの取り組みで得られる運行管制に関する知見は、Lumada 3.0のさらなる成長を支える技術の一つとしても活用されます。
日立が推進する、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX by Hitachi」を支えるフィジカルAI統合モデル「Integrated World Infrastructure Model (IWIM)」にも本システムの成果が反映され、社会インフラの安全性と持続的な革新に繋げられていくことでしょう。






