背景
近年、激甚災害の増加やサイバー攻撃の高度化・巧妙化により、重要な社会インフラを担う企業では、災害やサイバー攻撃発生時にも業務を継続できるミッションクリティカルなシステムが強く求められています。特に、遠隔地間でリアルタイムにデータを同期し、災害時でもデータを失わずに早期に業務を再開できる事業継続の確保への関心が高まっています。また、ITコストの増加や仮想化基盤の老朽化に伴い、仮想化基盤の見直しやコンテナ技術を活用したシステム基盤への移行が進み、アプリケーションを含めたシステム全体を柔軟かつ効率的に運用できる環境への需要が増しています。
一方で、データ同期ができたとしても、仮想化基盤、OS、アプリケーションまでを一気通貫で自動復旧させる仕組みの構築は、システム全体の連動が複雑であるため困難でした。さらに、このような新しい基盤へ移行・導入するには、システム復旧の目標時間(RTO)やデータ復旧の目標地点(RPO)に合わせた複雑な設計や、長距離通信環境に応じた性能調整など、高度な専門知識が必要となり、導入の負担となっていました。
本実証の概要
今回の実証では、ミッションクリティカルなシステムの要件を満たすため、ストレージ、仮想化基盤、データベースを組み合わせた実機環境が構築されました。基盤には、従来の仮想化環境からの移行を見据え、日立ヴァンタラのストレージ「Hitachi Virtual Storage Platform One Block」(以下、VSP One Block)とRed Hat OpenShift Virtualizationを統合したハイブリッドクラウド環境が採用されています。さらに、データベース層としてOracle AI Databaseが用いられ、災害対策構成が検証されました。この実証では、主サイトで障害が発生した際に、「Red Hat OpenShift」の高可用化機能からの要求により、日立ヴァンタラの「Hitachi Storage Plug-in for Containers」が即座に連動し、障害の検知から副サイトへの切り替え、OSやデータベースの起動までの自動化が検証されました。
実証環境、実証技術、各社の役割は以下の通りです。
| 実証環境 | NTTドコモビジネスが提供するIOWN(R) APN実環境(東京・大阪間相当の600km通信環境) |
|---|---|
| 実証技術 | ネットワーク:IOWN(R) APN |
| アプリケーション:Oracle AI Database | |
| 仮想化プラットフォーム:Red Hat OpenShift Virtualization | |
| ストレージ:VSP One Block | |
| 各社の役割 | 日立:プロジェクト全体の統括、BDSの提供 |
| 日立ヴァンタラ:IOWN(R) APN実証設備へのVSP One Blockの仮想ストレージ接続・機能評価 | |
| NTTドコモビジネス:IOWN(R) APN実証設備を用いたAPNの機能・性能評価 | |
| レッドハット:仮想化プラットフォーム(Red Hat OpenShift Virtualizationなど)およびOSの提供 | |
| 日本オラクル:データベース(Oracle AI Database)の提供 |
本実証の結果
本実証では、システムが稼働する主サイトのシステム停止を想定し、副サイトへ切り替えた後、業務を再開するまでの時間とデータ保全性などが評価されました。その結果、以下の3点が確認され、災害時にも確実に業務継続が可能であることが分かりました。
-
アプリケーション層まで一気通貫な全自動復旧により、約10分での業務再開
通常、本実証で採用されたコールドスタンバイ構成では、数秒で完了するストレージ切り替えの後、OSやデータベースの起動に時間を要します。しかし、Oracle AI Databaseの起動・リカバリ処理をデータの一貫性を維持したまま2分弱で完了させるなど、各プロセスを効率化した結果、システム全体として約10分での早期業務再開を実現しました。これは、ミッションクリティカルシステムで求められる高い業務継続性の要件に応える水準であり、OSからアプリケーションまで一気通貫での自動切り替えにより、実用レベルでの業務再開が確認されました。 -
600kmを超える距離環境下におけるデータ保全性の維持
BDSとOracle AI Databaseを連携させることで、システム切り替え後もデータの一貫性を維持しながら、副サイトでデータベースの稼働を再開できることを確認しました。ストレージからデータベース、アプリケーションまで、システム全体でデータ保全性を維持できることも確認されています。主サイトが停止した場合でも、データの一貫性を保った状態で副サイトから業務を継続できることが実証されました。 -
600km超の遠隔地間におけるRed Hat OpenShiftのコンテナアプリケーションの実現性を確認
本実証により、従来は通信遅延の影響から構築が難しかった600kmを超える遠隔地間において、IOWN(R) APNの低遅延ネットワークを活用することで、Red Hat OpenShift上で稼働するマイクロサービス間のリアルタイム連携の実現性が確認されました。これにより、遠隔地に分散したシステムを一体的に運用できる見通しを得るとともに、災害対策を考慮したコンテナアプリケーション基盤の適用可能性が実証されました。
今後の展開
各社は、本実証で得られた知見をBDSの強化につなげ、金融分野をはじめとするミッションクリティカルな領域への適用拡大を進めていく方針です。パートナー企業との連携を深め、事業継続を支える実用的な災害対策ソリューションの提供を目指すとともに、日立とNTTドコモビジネスのデータ基盤サービスへの適用も視野に入れ、幅広い顧客へ展開します。加えて、BDSのサイバーレジリエンス機能と、本実証の結果であるリアルタイムデータ同期によるデータ保全を組み合わせることで、サイバー攻撃への備えとしても活用し、セキュリティ用途への適用も拡大していくとのことです。
さらに、災害時の事業継続にとどまらず、平常時においてもBDSを活用したワークロードシフトの実現を目指します。リアルタイムに同期されたデータを基盤に、電力供給やデータセンターの稼働状況に応じて処理を実行する場所を柔軟に切り替えることで最適な運用を可能とし、「ワットビット連携」構想が掲げる持続可能なデジタル社会の実現に貢献していきます。
Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPANでの紹介について
本実証の結果は、日立が2026年9月3日(木)~4日(金)に開催する「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」において紹介される予定です。
展示会場の「EX15: 距離と電力の壁を越えるBorderless Data Share」にて紹介される予定です。
詳しくは、公式サイトをご覧ください。
https://www.service.event.hitachi/regist/
エンドースメント
Honore LaBourdette, vice president, Global Telco Ecosystem, Red Hat氏のコメント
「レッドハットは、日立、NTTドコモビジネス、および日本オラクルと協業し、Red Hat OpenShift Virtualizationを活用した、より迅速で強固な災害対策機能を提供できることを大変嬉しく思います。これにより、お客さまが、ミッションクリティカルな基幹システムを、より円滑に最新の環境へ移行できるよう支援します。Red Hat OpenShift Virtualizationは、単なる移行先ではなく、先進的なクラウドネイティブの未来へとつなぐ架け橋です。仮想マシンとコンテナを一つの統合されたプラットフォーム上で同時に管理できるようにすることで、企業や組織の今日の運用を最新化し、同時に、これからのAI主導のイノベーションを支える柔軟で高性能な基盤づくりを強力に後押しします。」
レッドハット株式会社 代表取締役社長 三浦 美穂氏のコメント
「日立のストレージ仮想化技術とNTTグループのIOWN(R) APNを組み合わせたBDSを活用した取り組みの第2弾として、Red Hat OpenShift Virtualizationを活用した共同実証に参画できたことを嬉しく思います。今回、各社が協力し、短期間で実証を成し遂げ、貴重なノウハウを蓄積できたことで、ミッションクリティカルなシステムの災害対策に向けた仮想化基盤を含む統合システム基盤として、お客さまへ安心して実用化のご提案ができるようになりました。今後とも、日本市場におけるBDSとの連携を含めて各社と協業し、お客さまのシステムのモダナイゼーションとビジネス継続に貢献してまいります。」
日本オラクル株式会社 専務執行役員 クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 本多 充氏のコメント
「このたびの共同実証は、Oracle AI Databaseがミッションクリティカルなシステムのレジリエンス強化に果たし得る役割を示すものです。データ保全性を維持しながら遠隔サイトへの高速フェイルオーバーを実証したことで、Oracle AI DatabaseとIOWN(R) APN、ならびにパートナー各社のストレージおよび仮想化技術の組み合わせが、地理的に分散した環境における広域災害対策に向けた実用的なアプローチの実現に寄与できることを示しました。日本オラクルは引き続きパートナー各社と連携し、お客さまの事業継続性の強化と、よりレジリエントなIT環境の構築を支援してまいります。」
企業紹介
日立製作所について
日立は、IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用した社会イノベーション事業(SIB)を通じて、社会インフラをデジタルで革新し続けるグローバルリーダーを目指し、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献します。デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズの4セクターに加え、新たな成長事業を創出する戦略SIBビジネスユニットの事業体制でグローバルに事業を展開し、Lumadaをコアとしてデータから価値を創出することで、顧客と社会の課題を解決します。詳しくは、www.hitachi.com/ja-jp/をご覧ください。
日立ヴァンタラについて
日立ヴァンタラは、データによるイノベーションに変革をもたらしています。日立製作所のグループ会社として、世界をリードするイノベーターに対し、信頼性の高いデータ基盤を提供しています。データストレージ、インフラストラクチャ、クラウド管理、そしてデジタルの専門知識を通じて、顧客が持続的なビジネス成長の基盤を構築できるようサポートします。詳しくは、www.hitachivantara.comをご覧ください。
NTTドコモビジネスについて
法人向け総合ICT事業を担うNTTドコモビジネスは、企業と地域が持続的に成長できる自律・分散・協調型社会を支える「産業・地域DXのプラットフォーマー」として、新たな価値を生み出し、豊かな社会の実現を目指します。パートナー企業を含めたエコシステム全体で、各社の技術や知見を組み合わせ、顧客の課題やニーズに応じた最適なソリューションを提供してまいります。
用語解説
-
IOWN(R) APN: IOWN(R)を構成する主要な技術分野の一つであり、エンド・ツー・エンドで光波長パスを提供することにより、高速大容量・低遅延な通信を実現しているネットワークです。将来的には、端末からネットワークまでフォトニクス(光)ベースの技術の導入を拡大し、さらなる低消費電力化を目指します。「IOWN(R)」は、NTT株式会社の商標または登録商標です。
-
Borderless Data Share (BDS): 日立のストレージ仮想化技術とNTTグループのIOWN(R) APNを組み合わせることで、600kmを超えるような長距離間での、リアルタイムなデータ同期を実現するソリューションです。詳細はこちら:https://www.hitachi.co.jp/products/it/society/product_solution/telecom/infrastructure/bds.html
-
Red Hat OpenShift Virtualization: Red Hat OpenShiftの一機能であり、Kubernetesを基盤とした一貫性のある統合ハイブリッドクラウドプラットフォーム上で、顧客が仮想マシンを最新のワークロードと並行して移行、実行、管理できる設計のことです。
-
コンテナ技術: アプリケーションとその依存関係を一つのパッケージにまとめ、どの環境でも同じように実行できる軽量な仮想化技術です。
-
RTO (Recovery Time Objective): 災害やシステム障害が発生した際に、システムやサービスの復旧を完了させる目標時間のことです。
-
RPO (Recovery Point Objective): 災害やシステム障害が発生した際に、データをどの時点まで復旧させるかを示す目標値のことです。
-
Hitachi Virtual Storage Platform One Block (VSP One Block): 日立ヴァンタラが提供するデータストレージです。革新的なデータ圧縮・保護技術で、増大するデータの管理の効率化とシステムの安定稼働を実現します。製品ライフサイクル全体で環境負荷も低減します。
-
高可用化機能: システムの稼働状況を常時監視し、障害発生時に自動で予備のシステムへ処理を切り替えるRed Hat OpenShiftの機能です。
-
コールドスタンバイ構成: 災害などの障害に備えた予備のサーバーやシステムを、平常時は稼働させずに停止しておく運用方式です。維持コストを抑えられる一方、障害発生時からのシステム立ち上げに時間を要する点が特徴です。
-
サイバーレジリエンス機能: BDSを構成するVSP One Blockに外部からアクセスできない、改変不可領域に保管されたバックアップデータから迅速に復旧できる機能です。
-
ワークロードシフト: 計算負荷(コンピューティング負荷)を時間的または空間的に移動させることで、電力需給バランスの調整やコンピューティングリソースの有効利用などを促進する技術です。
-
「ワットビット連携」構想: 電力と情報通信のインフラ整備を官民一体で進め、持続可能で効率的な社会基盤を築くための構想です。
商標注記記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商標もしくは登録商標です。
Red Hat、Red Hat ロゴ、およびOpenShift は、米国およびその他の国における Red Hat, LLC. およびその子会社の商標または登録商標です。Linux(R)は、米国およびその他の国における Linus Torvalds の登録商標です。
*Oracle、Java、MySQL、およびNetSuiteは、Oracle Corporationの登録商標です。NetSuiteは、クラウド・コンピューティングの新時代を切り開いた最初のクラウド・カンパニーです。





